日本の絶滅危惧種ギャラリー

日本の川にひっそり生きる固有種 ニホンイシガメの生態と保全への道のり

Tags: ニホンイシガメ, 爬虫類, 淡水生物, 固有種, 絶滅危惧種, 保全

日本の身近な固有種、ニホンイシガメとは

日本の河川や池などで見かけることのあるカメ、その中に日本の固有種であるニホンイシガメ(Mauremys japonica)がいます。かつては比較的普通に見られたこのカメも、近年はその数を大きく減らし、環境省のレッドリストでは絶滅危惧種として掲載されています。このニホンイシガメがどのような特徴を持ち、なぜ危機に瀕しているのか、そしてその未来のために何が行われているのかをご紹介します。

石瓦のような甲羅を持つカメ

ニホンイシガメは、成長しても甲羅の長さが20センチメートル程度と比較的小型のカメです。その名の通り、甲羅の表面には石の瓦を並べたような筋状の盛り上がり(キール)があり、これが大きな特徴の一つです。体色は褐色から暗褐色で、頭部や四肢には黄色やオレンジ色の斑点や模様が見られます。

主に河川の中下流、池、沼、水田といった淡水域に生息しており、水辺から離れて陸上を移動することもあります。食性は肉食傾向の強い雑食で、昆虫や甲殻類、魚、オタマジャクシ、植物の種子や果実など、水辺で見つけられる様々なものを食べます。

彼らは日光浴をすることで体温を調節したり、ビタミンDを合成したりします。水辺の岩や木の上などで甲羅干しをしている姿を見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。繁殖期には、メスが水辺から離れた土の中に卵を産みます。孵化した幼体は、鳥や哺乳類、大型魚などの餌となることもあり、食物連鎖の中では幼体の死亡率が高いとされています。

絶滅危惧種としての現状

ニホンイシガメは、環境省レッドリストにおいて「絶滅危惧II類(VU)」に指定されています。これは、「絶滅の危険が増大している種」であることを示します。かつて身近な存在であったニホンイシガメが、このようにレッドリストに掲載されるほどに数を減らしているという現状は、日本の自然環境が抱える問題を浮き彫りにしています。

絶滅の主な要因

ニホンイシガメが絶滅の危機に瀕している背景には、複数の要因が複合的に絡み合っています。

最大の要因は、生息環境の劣化と喪失です。河川改修による直線化やコンクリート護岸の設置、湿地の埋め立てなどにより、彼らが餌を探し、繁殖し、冬眠する場所が失われています。特に、産卵場所となる柔らかい土手や、冬眠場所となる水底の泥場が減少していることが大きな影響を与えています。

次に深刻なのが、外来生物の影響です。特に北米原産のアカミミガメ(ミドリガメ)は、日本の自然環境に持ち込まれた個体が繁殖し、ニホンイシガメと同じような環境を利用するため、餌や生息場所を巡って競合します。さらに深刻な問題として、同じイシガメ属のチョウセンイシガメなどとの間で種間交雑が進み、遺伝的に純粋なニホンイシガメが減少していることも指摘されています。

その他、交通事故による死亡や、一部での捕獲・密漁なども生息数を減らす要因となっています。

保全のための取り組みと私たちにできること

ニホンイシガメを守るためには、様々な取り組みが行われています。生息環境である河川や湿地の自然な状態を維持・回復させる活動、外来種であるアカミミガメやチョウセンイシガメの駆除活動などが各地で行われています。また、一部の動物園や研究機関では、遺伝的に純粋なニホンイシガメの繁殖・飼育研究や、人工的な繁殖・放流の試みも進められています。

私たち一人ひとりができることもあります。最も重要なのは、安易な外来生物の持ち込みや野外への放出を行わないことです。飼育できなくなったカメなどを絶対に自然の川や池に捨てないでください。また、ニホンイシガメを含め、日本の野生生物を許可なく捕獲しないこと、そして、彼らが暮らす水辺の環境を大切にすることです。

まとめ

ニホンイシガメは、日本の自然環境の豊かさを象徴する固有種です。かつて身近な存在であった彼らが絶滅の危機に瀕している現状は、開発や外来種といった人間活動が自然界に与える影響の大きさを物語っています。ニホンイシガメの姿を通して、日本の水辺環境が抱える課題を知り、彼らを含む多様な生き物たちが安心して暮らせる未来のために、私たちに何ができるかを考えるきっかけとなれば幸いです。美しい写真と共に、彼らの存在を多くの方に知っていただきたいと願っています。